この本は、ある方については覚悟が必要です。
- 現在、メディアで目にする「何もないがらんとした部屋に暮らすミニマリスト」のような暮らしを理想と考えている方。
- もしくは自身がそのように暮らしている方。
ミニマリズムについての論議は、数年前のブーム発生あたりからあちこちで行われてきました。
モノを溜めこむ傾向にある人をホーディングと言い、モノを極限まで減らそうとする人は一般にミニマリストと言うそうです。
一方で著者は、どちらも肯定していません。「真ん中くらいがちょうどいい」と言います。
この本の著者は、ミニマリズムは流行の1つだととらえています。実は私も、この意見には賛成です。実際、拙書「簡単に暮らせ [ ちゃくま ]」(リンク先は楽天)でも、同様のことを記しました。
「もたない暮らし」でさえも「流行」のひとつの可能性があります。
書籍「簡単に暮らせ」は、主に「持たない暮らし」のコツをメインに綴っています。一方で当時、「なぜこれほどまでに、人々は持たない暮らし」を望むのだろう、と思ったのです。その過程にあるのは「思い込み」にあると気が付きました。
結果として浮かび上がったのは「持たない暮らし」つまりミニマリズムを求める風潮自体が「流行である可能性」だったのです。
けれども例の一文は、書籍の最終ページの最後列に設けられています。この書籍を文字通り流行に乗って読み始めた場合には、最終の文章は読み逃した可能性があるでしょう。
「なぜ、ミニマリズムを追うのか」
この状態を俯瞰した時に見えるものは何か。それこそがミニマリズムを単なる流行にしてしまわず、本質を見極める視点になるのです。
できれば、そのことに「気付いてもらいたい」という願いを込めました。
話は戻り、「捨てる贅沢 モノを減らすと、心はもっと豊かになる」によると、ホーディングはうつ病や過剰な完璧主義に関わっていると科学者の見解でわかってきたそうです。
うつ病はともかく、「過剰な完璧主義」もホーディングの原因にあるとすれば、完璧なまでにモノを持たない暮らしを実践しようとすることも、根っこにあるのは同じであるということになります。
片方はモノを過剰に持ち、片方はモノを過剰にまで頑なに持とうとしないわけです。見える光景こそ違いますが、「過剰である」という点においては共通していると感じるのは私だけでしょうか。
著者は言います。「ホーディングの状態(ホーダー)は多かれ少なかれ誰もが持っている」と。そして「矛盾するようだが、雑多なモノたちが本質から目を背ける役わりと効果を担っている」と。
さらに意外だと思われることがあります。それは著者は、最近目にするタイプのミニマリストには懐疑的なことです。
ホーダーの対極にある「似非ミニマリスト」
というかなり強い表現をしています。ミニマリズムそのものや、ミニマリスト自体を否定しているのではなく、極端な暮らしをしているようなミニマリストに注意をうながしています。
同時にこれらのミニマリズムは、流行でありパロディだとまで言っています。
ミニマリストを称する方の内容は実に様々です。ですが例えば著者が言う様な過度なミニマリズムを実行している方の、ある共通点が気になっていました。(すべてというわけではありません)
それは何かしらの虚無感を経験していることです。例えばある方は失恋であったり、家族との別れであったりと様々ではあるものの、主に人との関係で大きな喪失感を経験している人が確率的に多い傾向があるようです。
もちろん、人は誰でも多かれ少なかれ、喪失感や虚無感を抱くときはあるものです。けれどもかつては、それらの解消としてモノを捨てたりすることはあまり公開されるものではなかったはず。
ところが最近はデジタル媒体などの発達により、誰でも簡単に発信できます。だから喪失感を形にしてしまった人たちを目にする機会が増えたとも言えます。
悲しい時に悲しい音楽を聴き、うれしい時には明るい音楽を聴く。こんな風に自分の心に合う音楽をきくことでストレスが軽減される効果があるとされるのは最近では定説になっています。
とすれば喪失感や虚無感を抱いているときに、何もない部屋で暮らすことも「悲しい時に悲しい音楽を聴いて心を癒す」効力と同じような効果がある可能性がありますね。
人は無意識に自分を守る行動をとっている。つまり何もない部屋に住もうとする人は無意識に自分にとっての最善を選択しているだけなのでしょう。
同時にミニマリストを称するのは、圧倒的に若い年代の男性が多いようです。この傾向と、若い年代の方々が抱く「時代的な傾向ともいえる喪失感、虚無感」と無関係ではないとも見えるのです。
一般に女性よりも男性の方が、メンタル的にナイーブな傾向があるとも言われています。
ただ、著者には奇異に映っているかもしれない暮らしぶりも、日本人の感覚としては「実はそれほどでもない」ことがあります。外国の方であるから、より強固に見えているという面もあるかと感じました。
例えば日本は古来より、多くの物を持たず最小限のサイズの部屋で暮らすのはごく当たり前のことでした。
ところが高度成長期をきっかけにモノを持ち、「寝て一畳起きて半畳」以上のスペースを必要とすることになっただけではないでしょうか。
欧米の方からすれば、奇異に映る「床に布団を敷いて寝る生活」も日本の「普通」からすれば特に珍しくも何ともない事です。
結局のところ、ミニマムリズムとは他者の視点を意識したところで、正解も不正解もないということでしょう。
あくまで「自分がどう考えるか感じるか」が全てであり、他人の視線や意見を聞いたところで否定と肯定の意見に振り回されてしまいます。
ただ、最近の国内ではミニマリズムが定着しています。だから異を唱える人があまりいなくなってきました。
そういう意味では違う意見を見聞きして、「思い込み」「固定概念」にとらわれていないだろうか、と自問することは必要でしょう。
そういう意味でも、この本は、ミニマリズム推奨派に染まりつつある国内の価値観に一石を投じる本です。ミニマリズムに興味のある方は一読しておく必要があるでしょう。