思わず片付けをしたくなる本を紹介します。これは短編小説です。片付け達人の大庭十萬里が、片付けられない相談者(依頼人は相談者の家族など)を請け負った4つの前後のエピソードが、いかにも「ありそう」でぐいぐい引き込まれます。
市原悦子さん主演の「家政婦は見た」あたりのイメージっぽいかも。
小説の視点は、相談役の片付け達人、大庭十萬里ではなくて、片付けられない住人側の人たちです。
Amazon あなたの人生、片づけます (双葉文庫)
率直におもしろい二時間ドラマを見たみたいで、引き込まれます。
「大庭十萬里」が、ぎりぎりの「おせっかい」をさりげなく実行することで、事態が良い解決に結びついている感じ。どのエピソードもリアルで「いかにもありそう」です。
でも大庭十萬里が、やっているのは、一通り状況を把握することと「この次まで(どう見てもゴミレベルのものを)ゴミを片付けておいて下さいね」と課題を出したり、喫茶店で相談者の話を引き出す程度なのです。
ところが不思議に、相談者たちはいつの間にか自分で解決策を見出していきます。
つまり大庭十萬里が、やっているのは、相談者が抱えている人生のゴミの片付けだったのです。具体的には相談者が自分で気付くように仕向けていること。
結局のところ、住まいのモノは、住人の精神状態が形になったものであり、「モノと心はリンクしている」ということかと。
特に、このエピソードの中で、「あるある」だったのは一人暮らしをしている老女、です。
一見、片付いていて散らかってはいないし、老女はまめに手入れはやっているほう。でも実態は、家が広いからいらないものがあるとは見えていないだけで、収納スペースには膨大な不用品があるのでした。
本人は自覚していないし、時間の感覚もマヒしているんですね。使わない食器や布団を大事にするのは「また孫たちが来るかもしれないから」というもの。
一方で、「いつか」が老女の悲願であり、既に現実にはない過去の思い出だったわけでです。
私の実家は、こう言ってはなんですが、多分かなり片付いている方です。一見すっきりしています。もちろん小説のような資産家でも何でもなく、普通の家です。
あの年代(70代)の割に母はマメにモノを捨てるし、(子供の頃はそれがイヤでしたね)掃除、洗濯、料理・・ととにかく、マメ。けれども台所には、ちょっと多めの捨てられない食器や調理器具があります。
だいぶ前に手放すことを提案したことがあります。すると母の答えは「あるある」で「孫たちが遊びに来る時のために、とっておかないと困る」というもの。
孫(うちの息子や甥っ子たち)が、しょっちゅう遊びに行っていた幼い時期のイメージがまだ消えないんですね。
まあ、台所の一部だけが「ちょっとだけ溜まっているかな」程度。なので、無理強いしても頑固だから無理。あとは言わないことにしました。
・・と、人の「粗」は見えてしまうものです。けれども自分もアンバランスな面はきっとある。
実際、「捨てるが最善」とわかっていても、決心が付かないモノは常に何かしら存在します。
その「捨てられない何か」こそが自分の弱点なのでしょうね。この本を読んで、改めてそんなことを感じました。
そして読みながら、半分忘れたふりをしていた「捨てられないモノ」が脳裏にチラチラと浮かんできました。
このタイプの小説は想像以上に楽しめました。ページをめくる手が止まりません。またこの著者の本を読んでみたいと思いました。
それでは、また。
Amazon あなたの人生、片づけます (双葉文庫)