はじめに
ー「バカ」とは芸術なのではないか。ー
「バカ」がこんなに奥深く、ここまでの多様性があるとは、もはや芸術の域なのではないか。
この本を読み進めるにつけ、そんな感覚を抱きました。
私もしょっちゅう、「バカ」な行動をとったり、言ったり、書いたりしています。
その謎を解き明かしたいとも思い、この本を手にしました。
それでは「バカ」の世界へようこそ。
もくじ
「バカ」がついている本はなぜ注目されるのか
時折、本のタイトルに「バカ」が付いているものがあります。これらはなぜか、人々の注目を浴びます。
おそらく、かなりの人が自分以外の人を、少なからず「バカ」と思った経験があるからです。
だから「バカ」と思った人を思い浮かべながら、「バカ」にいかに自分が「困らせられてきたか」が「どこかに書いてあるに違いない」と期待して本を手にするのです。確かにこの本は、ありとあらゆる「バカ」の事例が挙げられています。
綾小路きみまろさんの漫談に大笑いするマダムは何に笑っているのか
そこでふと、思い出したのが綾小路きみまろさんの話でした。
綾小路きみまろ さんは、漫談を行う芸人です。この方の漫談は、中高年の自虐ネタです。
かつてブームになった時、テレビに映るのは、綾小路きみまろさんの漫談に、大笑いする中高年のマダムだちでした。
私がまだ、中高年ではなかったころ、テレビでその光景を見ました。
当時、マダムたちは、自虐的に漫談に大笑いしているのだと思っていました。
「自分のことだとは思っていない」笑い
ところが綾小路きみまろさんは、驚くべきことを言っていました。
マダムたちが大笑いしているのは
「他人のことだと思ってるから」
というのです。マダムたちは、中高年の自虐ネタを、自分のことだとはまったく思っていなかった。
さらに、きみまろさんは続けます。
「『自分のことではない』と思うから笑っている」
と。
マダムたちは、自分ではない他人を貶める表現を「よく言ってくれた」の思いで大笑いしていたのでしょうか。
話は本書に戻ります。この本のタイトルの一部である「バカ」に多くの人が(私を含めて)引き付けられる原因が、その例にありそうです。
「バカ」の定義とは
結論を言うと、実はこの本の内容は「バカ」という文字に引きずられがちですが、真のテーマは意外とシンプルなものなのです。
その前提として知っておかなければならないことがあります。それは本書によればバカな言動は知性とは無関係だということです。
(なら、この部分はわたしかあてはまらないのかも)
知性のある人でも、バカな言動をとってしまうことは普通にあるというのです。
ではなぜ、人はバカな言動をとってしまうのか、これがこの本のテーマというわけです。
この場合の「バカ」とは、何なのでしょうか。答えは本書に書いてあります。
結局のところ、「バカ」とは、心理学研究によって証明されたさまざまな〈傾向〉や〈バイアス〉が極端に誇張されている人物をいうのだ。
「バカ」を探すレーダー
ではなぜ、私たちの周りには「バカ」が多いと感じるのか、それは私たちが「バカ」を探しているからに他ならないと著者は言います。
私たちはポジティブなものよりネガティブなものに関心を寄せるレーダーが備わっている・・というわけです。
インターネットと「バカ」
SNSでメンタルを病む人が多発
後半には、かなりのページを割いてインターネットに関する「バカ」の事例が取り上げられています。特にSNSに関する事例は、外国でも問題が起きているようです。
最近、様々な本でSNSに関する良くない事例が取り上げられています。すべてではありませんが、SNSを利用する頻度が増えるほどに、精神を病みやすいなどと言っている本も多いようです。
ツイッターは主張が強くなりがち
SNSもポジティヴに活用している人もいますが、一方でそうではない事例のほうが圧倒的に多い印象です。
私はツイッターを一応開設していますが、現在はブログの編集画面から更新情報をアップするだけで、アカウントには週に一度ちらりと眺めにいくだけです。私がフォローしている方やフォロワーさんは、だいたいは穏やかにツイッターと接しています。
ですが、ときおり、目にするつもりがないネガティヴ情報がどうしても目に入ります。また、ツイッターはブログなどと比較して、各自の主張がより強い傾向にあると感じます。
なぜ、そのようになるかの理由も、本書を読めば知ることができます。いずれも上手に使えば便利な情報源ですが、使い方を間違えれば自分に向かう刃と化します。
自分が「バカ」にならないために
当然、人間である以上、自分も「バカ」な言動をとる、既にとっている可能性は大いにあるわけです。
そういうときは、「他人のことだ」と思って笑うマダムではなく、「もしかして、自分のこと?」という視点を持つことが「バカ」にならない秘訣でしょう。
著者はどんな方?
マルミオン,ジャン=フランソワ
フランスの心理学者。心理学専門マガジン『ル・セルクル・プシ』編集長
著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
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さいごに
つまりこの本は、「なぜ、人は合理的ではない行動をとってしまうのか」に関するいたってまじめなものです。
一方で、おそらくAIは決してバカな言動をとらないでしょう。つまりバカは人間そのものなのではないでしょうか。
私は冒頭でー「バカ」とは芸術なのではないか。ー という直感を抱いた話を書きました。本を読み通してみると、やはりその感覚はぬぐえないのです。
さらに感じたのは、「『バカ』の研究」とは、人間の研究だということ。バカなことをしでかさなくなった人間は、もはや人間ではないのかもしれません。