はじめに
最近何かと「エビデンス」という言葉を聞きませんか。でもこんなに簡単に「エビデンス」が多用されるはずはありません。そんな疑惑を抱いていた矢先に、この本を見つけました。「疑惑」はやはり当たっていたのです。
- はじめに
- エビデンスのランク
- 動物実験の結果はエビデンスの欄外にある
- 「エビデンスが分かれる健康情報」をどう見るか
- エビデンスが分かれる健康情報をどうするか
- あやしいキーワード一覧
- 著者について
- さいごに
エビデンスのランク
そもそもですが、エビデンスにはランクがあったのです。本書によると、エビデンスは6つのレベルに分けられて説明されています。
レベル1が高く、レベル6が一番低くなります。
「専門家の意見」はエビデンスレベルでは最下位
専門家の意見と聞けば私たちは信頼を置きます。ところがこれこそがエビデンスとしては、最もレベルが低いのです。
理由は具体的なデータに基づいているわけではないからです。ましてやテレビでの「専門家の意見」をうのみにしてしまうことが、いかに危険かわかるというものです。
「症例報告」は「エビデンスレベル5」
この段階にあるのは、専門の教科書にも載らない珍しい症例の経験や、特定の治療で効果のあった症例が論文や学会で発表されたレベルの内容です。
それ自体に信頼がおけるかどうかというより、臨床医が研究を進めるのに大きな役割を果たしているという段階です。
「症例対象研究」と「コホート研究」はレベル4
「症例対象研究」は過去にさかのぼる研究で、「コホート研究」は現時点で症例がない人を未来に向けて観察していく研究です。
コホート研究のほうが信頼性が高いそうです。
「非ランダム化比較試験」はレベル3
以下の「ランダム化比較試験」と同じく患者を対象としますが、どの患者をどちらのグループに振り分けるかについてランダム化の手法を取り入れないのが「非ランダム化資格試験」だそうです。
「ランダム化比較試験」はレベル2
患者を対象とした研究で信頼性が最も高いのが「ランダム化比較試験」でレベル2です。この方法ではどの患者をどちらのグループに振り分けるかをランダムに決めて人間の判断を取り入れない手法です。
「システマティックレビュー」と「メタアナリシス」はレベル1
信頼性の最上位が「システマティックレビュー」と「メタアナリシス」です。「複数の研究を統合して結果を出したもの」だそうです。
動物実験の結果はエビデンスの欄外にある
以外だったのは動物実験の結果が、エビデンスとは言えないという点です。
「エビデンスが分かれる健康情報」をどう見るか
エビデンスがないことと効果がないことは違う
コロナウィルスのように、初めて出てきたものについては、当然、研究も少なくそもそもエビデンスとなる情報が少ないわけです。
つまりエビデンスがないから「効果がない」とは言えないと著者は本書で言っています。特にマスク使用の効果については、意見が一転二転しています。
動物実験によるデータでは「感染したハムスターがマスクをするのが最も効果がある」結果でしたが、これは動物実験なのでエビデンスレベルは欄外になる点が注意しなければならない点だそうです。
本書にはこのほか、様々な方向性からマスクの効果についての研究の結果が記されています。読んだ印象は全般に「マスクはそれなりの効果がある」と読めましたが、はっきりした結果は出ていないので、マスクをしたほうが、効果があるかもしれないほうに向くといったところでしょうか。
エビデンスが分かれる健康情報をどうするか
本書にはエビデンスが分かれる健康情報について記されています。ここでは主に気になった2つの事例を挙げます。
卵はコレステロール値を上げるか上げないか
最近は卵はコレステロール値を上げないといわれています。けれども例えば、私の場合、かかりつけ医は「卵は1日1個程度にしたほうがよいでしょう」と言っています。ですので、それに従い、卵は食べ過ぎないようにしています。
本書には「卵を食べる頻度」との因果関係の研究結果があるけれど「一日の量」に言及がないことを上げ、著者は慎重な意見を持っているようです。
味噌は血圧を上げるか上げないか
味噌の健康効果と塩分接種の血圧のはざまのジレンマです。これについても様々な意見があります。
著者は「塩分が高くても味噌はOK」のエビデンスはないと考え、みそ汁の飲みすぎには注意を促す意見を出しています。
あやしいキーワード一覧
真偽のあやしい情報には、共通したキーワードがあるようです。裏を返せば以下のキーワードが出たら注意したほうがいいようです。
- 「効いた!」「100%効く効果」「末期がんが消えた」など
- 免疫力アップ
- 〇〇しないと△△になる
- 有名医師の推薦、個人の体験談
- ノーベル賞のキーワードも危険
- 自然派を強調
- ○○学会公認
本書にはなぜ、こうしたキーワードに注意が必要なのかが詳細に書いてあります。よく聞くキーワードですので、これからは注意することにします。
著者について
松村 むつみ
1977年愛知県一宮市生まれ。医師・医学博士・医療ジャーナリスト。2003年、名古屋大学医学部医学科卒。03年、国立国際医療センター(現・国立国際医療研究センター)臨床研修医。06年、横浜市立大学病院附属市民総合医療センターの放射線医学教室に入局、勤務医として大学病院で診療に従事しながら研究を続け、放射線診断専門医、核医学専門医、博士(医学)を取得。 2017年よりフリーランス画像診断医となる。
さいごに
やたらと目にするようになった「エビデンス」ですが、そもそもその定義があいまいでした。本書を読んで、その定義や注意すべき点を知ることができました。
様々な権威付けの効果がエビデンスとして採用されていることや、動物実験がエビデンスにはならないことなどを知り、今後はより、エビデンスの解釈に注意を払いたいです。