はじめに
この本をパラパラとめくると、まず目に入るのは、各章ごとの真っ黒いページ一面に記された表紙です。「苦、自己、虚構、 結界、 悪法、降伏、 無我、智慧」の文字が目に飛び込みます。
(出典 Amazon商品紹介ページ「無(最高の状態) 単行本」より)
人は苦しみから逃れる方法はないのか
誰しも生きていく過程ではポジティブ思考になり切れない。一方で望ましい体験は長続きしない。ネガティブな思考にさいなまれることは、誰しも経験がありますよね。
「わかっちゃいるけど、やめられない」
的な感じ。
本書の冒頭では、こんな状態を「ハムスターがホイールを走る状態」にたとえています。これは心理学で「快楽の踏み車」と呼ぶそうです。
「ホイールの中を走るハムスターが決して前に進めないのと同じように、人間の喜びも同じ位置にとどまり続ける事実を現した言葉です。
本書は、「私たちは結局、苦から逃れられないのか」について記されています。
結論を言えば、本書に書いてある方法や考えを実践することで、方法はあるといえます。
本書は以下の章があります。基本的に順番通りに読み進めるのがよいでしょう。
序 章 苦
第1章 自己
第2章 虚構
第3章 結界
第4章 悪法
第5章 降伏
第6章 無我
終 章 智慧序 章 苦
では、どんな方法なのかというと、まずは人がなぜ、苦を感じるのかを知ることがスタートというわけです。
第1章 自己
初めの章では、半身不随になったチンパンジーが、絶望することなく笑顔を見せるなど尿検査の結果からもストレスを感じていないことがわかりました。結果、3年後には歩行機能を取り戻していたのです。
動物たちが感情を持たないのではなく、ほかの動物も悲しみを表現している例が多々あるそうです。一方で人間は多々、苦しみを抱いている。著者は人間のマイナスの感情を客観的に機能としての役割を記しています。
例えば、怒りは自分の重要な境界が破れたことを知らせ、嫉妬は資源を他人が持つことを知らせる機能である・・などです。
そもそもですが、苦しみは自己の意識があるから、です。ところが実は、自己は単に生存のためのツールとしての役割に過ぎないと言っています。
こんな風に言うと、もしかしたら驚く人もいるかもしれません。でも、実は仏教系の書籍を読むと割と普通に取り入れている概念です。
自己の意識が、そもそもが機能に過ぎないと知れば、不思議に苦悩した気持ちも薄れる気がしませんか。
第2章 虚構
何かに苦しんでいるときは、自分のことで頭がいっぱいです。反対に自分というものを一時的にでも客観的に眺めてみると、不思議に冷静になれるもの。
本書でも、自己という虚構を絶対視する態度が原因になることを指摘しています。
そもそも「ありのままの自分」や「自分らしく生きる」が、ドーナツの穴を食べようとするように不可能なのだそうです。
また、人間の脳は現実より「物語」を信じるクセがあるようです。本書には「物語」を重視することを体験できる格子模様が記されています。本書を読んだらぜひ、試してみてください。
第3章 結界
結界というと、神社の鳥居やしめ縄、葬儀の幕があります。これらは厳しい境界をあらわしていると思っていました。
ところが本書によると、結界は「この中にいるから大丈夫ですよ」と安心をもたらすものらしいのです。
この章で著者が特に重視しているのは「グラウンディング」というテクニックです。これは心理療法で使われるテクニックで「現在」に心を引き戻すノウハウのことだそう。
本書には代表的なグラウディングの手法として、
- 自己解説法
- 54321法
- 暗算法
が紹介されています。どれもすぐに実践できることですが、効果は大きそうなので、ぜひ本書で詳細を読んでみることをおすすめします。
第4章 悪法
ここでいうところの「悪法」とはつまり、自分で自分を苦しい考えに導いてしまう、考えの悪い癖の様なもののことです。
この賞には18の「悪法」が記されています。自分の好ましくない内面がどこから来るのか、18の中に原因となるものがあるはずです。
第5章 降伏
世界で最も幸福な部族として、アマゾンに住む狩猟採集民のピダハン族の例が挙げられています。
ピダハン族にはメンタルの問題がほぼ見かけられないのだそう。もちろん先進国のような暮らしではないので、獣や猛毒や伝染病、他部族の脅威があるので恐怖の概念は避けられないはず。それなのに「悪法」がない状態は、私たちにも可能であることを示しています。
その対策として挙げられているのは、起きている事実を受けいれることです。例えばある実験例では運動の辛さを受け入れたほうが、そうでないよりも、疲れて動けなくなるまでの時間が延びている例を挙げています。
自分で選んだ登山は足の痛みを苦しみとは認識せず、他者から供用された登山なら途端に「なぜこんなつらい目に」と否定の思考になるといいます。
ワクチンもその価値を理解しない子供は理不尽な痛みとして抵抗する例が挙げられています。
私事ですが、確かに当初はどう向き合えばよいか戸惑ったことも、「すべて受け入れる」と覚悟を決めました。それからは、絶え間なく変動する症状を「今度はこう来ましたか~」と、受け止めています。
第6章 無我、終 章 智慧
正直言って、特にこの章は難しいですね。だからとりあえず軽く読みはしますが、理解しようとまではしなくて良いと思っています。
さいごに
かなり難しい概念をステップアップ方式で分かりやすく記されているので、大変参考になりました。様々な手法が紹介されていて、少しずつ試してみたいと思えるものばかりです。
ただ、著者はサービス精神旺盛なのか、ここに紹介されている手法を選択しつつ実践するのはかなり大変でもあるという印象です。
まずは気になったこと、できそうなことから、少しずつ試していけばいいかな・・という感じでしょうか。
本書は、仏教的概念と、心理学、様々な情報をバランスよく紹介したものです。それぞれの入門書的存在としても参考になると思われます。